将棋
父との数少ない印象的な思い出は書き尽くしたと思っていたけれど、藤井四段の将棋の話題で思い出したことがある。
将棋が好きだった父は、新聞に載っている詰将棋の問題に、「ハア、ハア、ホオ!…っハアー!」と感心して唸りながら駒を打っていた。
私も低学年の時に、駒の動かし方や攻め方を教えてもらって、時々父と勝負した。
私はまったくセンスがなかったので、教えてもらった通りのことしかできず、計算も何もないデタラメでしか打てなかった。
それなのに、父は私の一指しごとに「うーん、これは…。……。……。どういう手だ?うーん……。……。……。こうして、ああして、こうなるから…。」と深く深く考える。
いやいや、何も考えてません!
と言うのも悔しいので、いかにも策があるような素振りで進めるのだが、頭空っぽで打っているわけで、結局は父に詰められて王手される。
最後に「まだまだだな!」と言われていつも悔しい思いで終わる。
いつだったか、もう私が一人暮らしをしていた頃に、ガレージショップのようなところで、ファミコンと将棋のソフトを手に入れて、父にプレゼントしたことがある。
ソフトには名人棋士の名前がついていたけれど、機械vs人なので、機械の番になると間髪入れず駒を打たれるのが急かされるようで、あまりお気に召さなかったようだ。
それから、父の誕生日か何かに、詰将棋の問題集をプレゼントしたこともあった。
父が詰将棋のどんなところに魅力を感じるのか、私にもわかる。そして、あの感心した時の声「ハア、ハア、ホオ!…っハアー!」を思い出してはクスクスと笑ってしまう。
お父さん、お誕生日おめでとう!