父の話
屋外の工場に勤めていた父は、夏になると真っ黒に日焼けして、健康的な肌の色になっていた。
重油の入ったドラム缶を扱っていたので、腕は太く逞しく、とても体が弱くは見えなかった。
そんな父は、仕事での出来事や配達の道中で見た出来事などを話すことがあった。
仕事に限らず父の話は、やたらと擬音が多くて、面白がっていた私と母。
ガツッとなって、ガリガリガリッ…ってさぁ。
(何か重い物がぶつかって食い込んで、擦りながら移動する様子)
わんわんわんわん出てくるんだよ。
(水や煙のような形のないものが溢れる様子)
つーっときて、ツッて止まって、それでもってフイッと振り返ったんだよ。
(流れるように真っ直ぐ移動してきて、急に止まって、急に振り返った様子)
更に父は、卓袱台にある台布巾や湯のみやメモ紙や定規を使って、その時の現場の物の配置を説明する。
例えば、湯のみは電信柱に、定規はガードレールに、メモ紙と台布巾は車に見立てて説明してくれるのだった。
工場で、フォークリフトを使ってドラム缶やそれを載せるパレットの話をする時は、ドラム缶に見立てた湯のみを、フォークリフトに見立てた箸ではさんで、パレットに見立てた皿に載せようとして母に叱られていたのを覚えている。
そんな調子で愛嬌たっぷりに身振り手振りでするお話は、臨場感重視、だけども擬音ばっかりで時々よくわからない所があったり、擬音がオリジナルすぎてどういう状態かわからなかったりして、私は話途中からニヤニヤしてしまう。
今まで寡黙な父しか思い出せなかったけれど、それは仕事を引退してからで、働いている頃は仕事の中での工夫やアイデアの話をしていたなあ、と思う。
どうしたら効率良くなるかとか、そのためにどうしたかとか、そんな話をしている父はとても楽しそうだった。
最後までそんな風に楽しく、擬音いっぱいで話をしていたかったな。
お父さん、お誕生日おめでとう!