ひよことおさんぽにでかけよう!

ルキ=私  ルウ=4歳の娘  チャーリー=旦那様  楽しく子育て奮闘中!

父の思い出 2

半年が過ぎてしまったね。
もう、突然頭の中で父の声が聞こえることもなくなってしまった。
だから時々意識して父の声を思い出してみる。

  「メー子(母の愛称)!メー子!……ゆき、お母さん呼んで」

このフレーズが一番、父のリアルな声を思い出せる。
昭和の男(本当は大正生まれだけど)父は、いつも母を呼んでいた。
  「メー子、水」
  「メー子、靴下」
  「メー子、鞄」

  「水くらい自分で持ってきなさい」
と言いながら水を持って来る母。
無言の父。

  「靴下そこに出してあるでしょう」
  「えっ?」

  「鞄?鞄てどの鞄?」
  「…………。」
  「なんの鞄よ〜?」

父は母を呼ぶ以外、あまり積極的に喋らなかったから、それ以外の声を思い出すのは難しい。


寡黙な父は、私と2人きりになると益々喋らなかったように思う。
子どもと何を話せばいいのか分からなかったのかもしれない。


とても鮮明に覚えている昔の出来事がある。
私がいくつだったのか…小学校に上がるか上がらないか位だと思うが…。

私は父と手をつないで歩いている。
出勤する父を駅に向かう途中まで送って行くのだったと思う。
やはり2人には会話はない。
でも、私は父を送るという大役を務めるので、とてもウキウキしていた。

突然、父が私の手をキュッキュッキュッと握った。
私はキュッキュッキュッと握り返した。

また父がキュッキュキュキュッ。
キュッキュキュキュッ、私が同じリズムを繰り返す。


  キュキュッキュキュッ
  キュキュッキュキュッ


  キュッキュッキュキュキュッ
  キュッキュッキュキュキュッ


  キュキュキュキュギューッ
  キュキュキュキュギューッ


  キュキュッキュキュキュッキュキュッキュッキュッ
  キュキュッキュキュキュッキュキュッキュッキュッ


言葉はなくても、心が通っていた。
父と気持ちが通じたのがとても嬉しかった。
めったに褒めない父が「難しいリズム、よくできたねぇ!」と褒めてくれたのも嬉しかった。


私が大人になって、父は仕事を引退して足が弱くなってから、何回か行った旅行で、父と私は手をつないで歩いた。
私は子どもの頃を思い出して、父の手をキュッキュッキュッと握ってみた。
父はもう忘れていたのだろう。
わずかにキュッと返しただけで、リズム合戦が続くことはなかった。


でも旅行中、歩けなくなった父の車椅子を押している時、同じ景色を見て同じ感動を味わっていた。
その時はやっぱり心が通じあっていたと信じている。