ひよことおさんぽにでかけよう!

ルキ=私  ルウ=4歳の娘  チャーリー=旦那様  楽しく子育て奮闘中!

超リアルな○○

私とダリンは、コンサートやショーなどのイベントの企画・制作会社で働いている。
様々なジャンルの音楽グループや、クラウンやマジックや中国雑技などのパフォーマンスグループと提携していて、全国各地に公演に行く。
中でも学校行事の芸術鑑賞会に呼ばれる事が多く、仕事の内容も学校の先生とのやり取りが多い。


そんなうちの事務所に、都内の学校の校長先生が鑑賞会ご担当の先生5人を引き連れて訪ねていらした。
生憎その日は、ダリンも上司も代表も出張でいなかったので、私が応対する事になった。
  「はぁ〜! 思ったより大きい会社なんですねぇ!」
校長先生はしきりに感心している。
  「ありがとうございます。」
  「あの〜来客用の名札はないんですか?」
えっ?そんなものはないが……なめられちゃいけないと思い、棚から名札を出した。
“来客”の文字の下に名前を記入してもらうタイプの名札だ。
皆さんに名前を書いていただき、社内をざっとご案内する。

そして本題へ。
  「本校の鑑賞会に“SOUKI”の皆さんを呼びたいのですが…」
SOUKIと言うのは、パントマイムのグループで、学校公演でも度々出演していただいている私も大好きなグループだった。
  「先日のSOUKIの本公演を観ました。大変素晴らしかったので、ぜひ本校に来てほしいのです。」
本公演なら私も観に行った。
勧進帳」をパントマイムで上演するという前代未聞の発想で、素晴らしいパフォーマンスを披露して大成功で幕を降ろしたのはつい5日ほど前の事だった。
  「ありがとうございます。今、学校鑑賞会用のプログラムと資料をお出ししますね。」
  「お金はいくらでも出します。」
へっ?
  「ぜひよろしくお願いします。」
すごい熱意だ。
  「あの…鑑賞会のご日程はお決まりですか?」
  「来週の10月19日です。」
え、ええっ!
急すぎます!
スケジュールが埋まっている可能性大です!
  「あの、ちょっと差し迫っていますので……ひとまず、スケジュールの確認をしてみますのでお待ち下さい。」
急いでSOUKIのリーダーに連絡すると、ラッキーにもその日だけは空いているとのこと。
事情を少し話すとリーダーは校長先生にPRしたいことがあるので、電話を代わって欲しいと言う。
普通そんな事はしないのだが、リーダーの語気に押されて電話を校長先生に渡した。
それがいけなかった。
始めは先日の公演を誉め称えていらした校長先生は、次第にエスカレートし、悪い所を指摘するダメ出しを始めた。
どうやらリーダーと言い争っているようなのだ。
私は泣きそうになりながら、なんとか先生とリーダーを宥め、落ち着かせ、なんとか電話を切った。

ああ……もうダメダ…
私が余計な事をしたばっかりに…
今日はダリンも上司も代表もいないから、私がしっかりやらなきゃいけなかったのに……

ところが、校長先生はあっさりと「決めます」と仰って契約して下さった。
しかも凄い金額で!!

やりました!鰍沢
わざわざ事務所に訪ねていらしたお客様を逃したとなっては、ダリンにも上司様にも会わす顔がございません!


そして先生方はお帰りに…、お見送りする玄関を出る時に、上司Dさんが出張から帰って来た。

そして事件は起きた。
いや、もう起きていたのだ。
お帰りになる先生御一行とDさんがすれ違った時、Dさんが言った。
  「おい、ちょっと待てや」
ナヌヘっ?
(Dさんは一見強面風でヤクザっぽい)
  「中入れや」
Dさんは先生たちを事務所に引き戻した。

ただならぬ様子で、私も何かとんでもないことがあったんだと思った。
事務所に戻った先生たちの顔を見る。
何かがおかしい。
Dさんは本気か演技か、直視出来ないほど怖い視線で睨んでいる。

私は先生たち(…先生なのか?)に何か騙されたのかもしれない。
よく見れば校長先生は20代に見える。
他の先生たちも若く、服装もTシャツやGパンであまり先生らしくない。
先生たちの名札を見る。
「運知」
「阿保加」
「間抜」
………。
なんで気づかなかったんだろう。
騙されたのだ。からかわれたのだ。

Dさんはみんなを2階の稽古場に連れて行った。
私もうなだれてついて行った。

なんで気づかなかったんだろう。
名札をよく見ておけば、からかわれた事に気づけた筈なのに。

Dさんは並ばせた若者たちを前にして肩を震わせていた。
Dさんの心の声が聞こえる。

  冷静に!冷静に!
  こいつらは首謀者じゃない。
  こいつらが悪いんじゃない。
  こいつらを怒鳴ってもなにも良くならない。

Dさんは大きく息を吸って叫んだ。
  「ふざけんなっ!」
そして息を吐いて深く頭を下げた。
  「すみません。」
若者たちは呆気に取られて固まっている。
Dさんは、並んだ6人を一人一人見ながら、自分たちがどんなにこの仕事を大切にしているか、抱えているグループをどれだけ大事にしているかをとつとつと話し始めた。
Dさんはボロボロ泣いていた。
若者たちも泣き始めた。

そして最後に、誰に頼まれてこんな事をしたのか聞くと、若者は某同業社の名前を言った。
  「わかった。今日の事はなかった事にしてやるから帰れ。」
Dさんが言うと、若者たちは、深々と頭を下げ、すみませんでしたと謝って帰って行った。



私は時々、超リアルな夢を見る。
これが夢で良かったよぉ!