父の影
父との新しい思い出が増えていかないことが、当たり前なことになって、寂しいとか悲しいとか、あまり感じなくなって。
でも忘れてしまっているかというと、その逆で、街に出た時に杖を持っているおじいちゃんを見たり、父みたいなぶっきら棒な掠れた声を聞いたりすると、ハッと見つめてしまう。
困ってることないかな、助けてあげられることないかな、って。
この人は幸せかな。…父は幸せだったかな。
この人は誰かと気持ちがつながってるかな。…父は私と気持ちがつながっていただろうか。
この人は娘がいるかな。…父は私が娘でどう思ってたんだろう。
結局のところ、私は父を安心させてあげたり、心を通わせて何かにウキウキしたり、感謝を込めてありがとうを伝えたりできなかったという思いがあるから、杖を持ったおじいちゃんが背中を丸めて歩いていたりするのを見ると、その背中にトンと手を置いて伝えたくなってしまう。
今、私たちがこうしていられるのは、あなたのおかげです。ありがとうって。
ルウはもうすぐ8歳になります。
お父さんが一人でセントラルに働きに出た時の私の年齢です。
その頃の私の思い出は、セントラルの油の匂いがするお父さんと、フォークリフトを運転するお父さんと、相模川です。
お父さんのその頃の記憶はなんだろう?
プレハブの階段の途中が侵食して抜けそうだから気をつけてと言う声が聞こえてきました。
まだお父さんの声は聞こえるよ。
お誕生日おめでとう!